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行く先不明のlinux blog

例のアレ

12話。去年書いてあったけどどうしても気に入らなかったので4回書き直し。

12話 雨を見たかい(Have You Ever Seen the Rain?)


ある晩ファルスはふと目覚めた。見知らぬ黒衣の女が傍らに座っている。


「リリーは?」「もう、いなくなりました」女が答えた。そうか、いなくなってしまったのか。ファルスはふと思って女に聞いた。「ねぇ君、『雨を見たかい?』って覚えてるかな」「CCRですか?懐かしいですね」「大学時代にラジオでよく聞いたんだ。『晴れている日に降ってくる雨を見たことがあるかい?キラキラ光って降ってくる』」「降ってくるのは雨だけとは限りませんよ」「ああ、そうだったね」


気が付くと女はいなくなっていた。クランの夜。ファルスは再び苦しい息となり意識を失った。


キャメリアと密会を重ねるシルベチカ。そのことを知るチェリーは苦々しくシルベチカに忠告する。こんなことを続けていればクラン追放よ、と。シルベチカは私は自由に生きることに決めたのと言って聞き入れない。


「本部」からの黒づくめの女がクランを訪れる。その女を見たスノウは絶句する。私の顔になにかついていますか?不思議がる女。その名はマリーゴールドと名乗った。スノウはファルスの傍らにつきっきりとなった紫蘭にそのことを報告する。マリーゴールドは死んだはずだという紫蘭


「貴様のイニシアチブを受けて」「燃えて灰になったはず」


あの女が本物のマリーゴールドだとすれば自分のことを憎んでいるでしょうねというスノウ。それこそ、殺したいほどに。紫蘭は引き出しを開け、拳銃を取り出す。スノウはそんなものはいらないという。これは彼を守ってあげるために使ってという。紫蘭は銃を懐にしまった。


マリーゴールドはファルスからの報告を受けて人探しのためにこのクランに来たという。ただ、それが誰なのかはファルスの手紙にはっきりとは記されてはおらず、本人と直接話しがしたいという。残念ながら、ファルスは病の床にあり、もう誰とも話すことは出来ないと言うスノウ。そのスノウに話があるというチェリー。マリーゴールドは気を利かせてその場を離れるが、チェリーは一瞬呼び止めようとして諦める。


「ウルが作れない」チェリーがそう切り出した。チェリーによるとファルスの残した書付だけではウルを作るための製法がわからず、地下の図書室にしまってあった3000年前の文献を参考に血清剤を作ったが、それでも効果が無いという。文献によれば特殊な血液を血清剤にすることで「永遠に枯れない花」を作ることができると書かれており、チェリーはファルスの血で作った試作品を花にやったが、花は全て枯れてしまった。


「見て」「これは?」


それはクランの生徒の死亡率だった。それはある時期から急激に繭期を悪化させ死の床につくメンバーの増加を示していた。その表の中にファルスの名を見つけて顔を歪めるスノウ。


「私たちがいま飲んでいるウルには繭期のヴァンプの延命効果はないわ」「ファルスの症状の悪化がその証拠よ」「ある時から、ウルが紛い物にすり替わっている」


スノウはファルスがそのことに気づかずにウルを作り続けたことを疑問に感じ、なぜそうなったか、本当のウルはいつクランから消えたのか調べるようチェリーに依頼した。


シルベチカの胸に輝く監督生バッジ。それを見て「気に入らないわね」と呟くカトレア。シルベチカはぽつんと食堂に座っているマリーゴールドに愛想よく近づくと世間話に興じる


「ご趣味は?」「読書です」「最近、外の世界ではどんな読み物が流行っているのですか?」「流行りはよくわかりませんが、最近読んだ本で興味深かったのは、蝿の王ですね」「ハエノオウ?」「核戦争中に遭難した子どもたちを描いた小説です」「カクセンソウ?」「SFですよ」「。。。難しい書物がお好きなのね?」


マリーゴールドはこのクランには人探しできただけだという。皆さん私の事を誤解してらっしゃるようだ。ジロジロ見てくるし、私の顔になにか付いているんですかね?


「外の世界の方が珍しいのですよ」「みんなずっと」「ずっと長くここにいるから」


そこに凍りついた様な表情のチェリーが現れ、シルベチカに「ここでは話せない話がある」と切りだす。


シルベチカの私室。男と女の匂いがする部屋。キャメリアはいない。シルベチカは育てている花に水をやり始めた。「それで?チェリー、話ってなに?」


「あんたはファルスを殺そうとしている」「ファルスだけじゃない。クランのヴァンプ全員を殺そうとしてる!」顔色一つ変えないシルベチカ。「だれだっていつかは死ぬでしょ?」


「ウルをどこにやったの?」「どこにもやってないわ。みんな毎日飲んでいるでしょ?」「アレは紛い物よ!あんたがすり替えた!」「へえー」

「ばれちゃったんだ」シルベチカは他人ごとのように言った。

どうしてこんなことを!と問い詰めるチェリーにシルベチカは事の顛末を話し始めた。


「この花を見て」シルベチカが指差す先に咲いている勿忘草。「この花はね」「永遠に枯れない花なの」



最初は思いつきだった。ファルスが車椅子の暮らしをするようになり思うように動けなくなった頃、恋仲になったキャメリアに「本部から送られてくる血清剤」の管理を任された。この血清剤から作るウルがヴァンプに効くなら花にあげたらどうかしら。シルベチカは思った。水で薄めた血清剤を与えると、花は驚くほど長持ちした。みんなを驚かせようとして、シルベチカはカレンダーに印をつけて花がどれほど長持ちするか調べることにした。2日たち、1週間たち、やがて1ヶ月が過ぎた。何事もないようにクランでの日々も流れていく。だが、半年が過ぎる頃、シルベチカは何かがおかしいのではないかと思うようになった。この花はもしかすると永遠に枯れないのではないだろうか。やがて、一年が過ぎ、二年が過ぎた。クランも、花も変わらない。シルベチカは、恐怖に襲われるようになった。もしかすると、何十年ったても花は枯れないのではないだろうか。



「あんたはどうかしてるわ!」「永遠に枯れない花なんて繭期のヴァンプの見る妄想よ!」「しっかりしてよシルベチカ!」「あんたいつからそんなおかしなことを考えるような女になったわけ!?」


「チェリーにだから見せるんだよ?」シルベチカは静かに笑うと、ベットの下から紙の束を引き出してチェリーに示した。古びた、紙の束。


「25年分ある」「この花は、25年前からずっと咲き続けてるの。。。」「私たちもこの25年間、ずっとここにいる」「年も取らずに」「ずっと、毎日同じ日を繰り返してる」「たぶんずっとずっと前から!」「私たちは、永遠のほとりに置き去りにされた永遠に枯れない花になったのよ」


チェリーはシルベチカがなぜこんな妄想にとりつかれたのか理解できなかったが、それでもこの目の前の親友を助けなければと考えた。永遠に枯れない花なんて、あるわけないじゃない。だが、シルベチカの次の言葉がチェリーを凍りつかせた。


「だから、ウルをすり替えたの」「ウルをもらえなくなった子はあっという間に死んだ」「天国に召されたのよ」「私も死のうと思った」「でも死ねなかった」「そうやって、何年も過ぎていったわ」


チェリーは激昂して「あんた、自分がなにやったのかわかってるの!?」と叫んだ。「わかってる」「みんなを解放してあげるの」「でもいきなりでは怪しまれるわ」「だから、ゆっくりと」「ひとりづつ」「減らしていくの」「何百年もかけて」「最後に私とキャメリアだけ残ればいいのよ」「どうせ、だれだっていつかは死んでしまうんでしょ?」


「次のターゲットはファルスってわけ?」「だって彼、リリーと幸せそうなんだもの」「効きもしないウルを作って僕がクランを守るってご満悦」「同じ毎日を何百年も繰り返していることにさえ気づかないお間抜けさん」「だから、憎かったのよ」「めちゃくちゃになってしまえばいいと思ったの」「まさか、竜胆もあんたが」


「そうよ」「竜胆さん、私とキャメリアのことをお館様に告げ口するって聞かないから、噛んでやったの」「あとは自分で人買いを呼ばせて、ミモザと一緒に連れて行ってもらった」「ウルはね毎日送ってあげてるの」「もう正気に戻っているでしょうね」「でもウルのお陰で永遠に若いまま」「何かの拍子に死ぬまで何百年も飾り窓に閉じ込められたまま生きるのよ」「いい気味」「ザマアミロ」


「あんたは狂ってるわ」「違う。狂っているのはみんなの方よ」


「幸せに、狂っているの。みんな」「私は、正気に戻ってしまった」「もう、お伽話の花園にはいられない」


チェリーは打ちのめされたまま、シルベチカの部屋を出た。これ以上シルベチカの犠牲者は増やせない。どうしたらいい?


「なに?お化けでも見たような顔してるよ?」不意にカトレアが声をかけた。ねえ、あんた、体調はどう?チェリーがそう切り出す。カトレアはすこぶる健康、でも最近少し繭期かな、と答えた。


「ねぇ、あんた、死んだら魂はどこに行くと思う?」「なによいきなり」「どこにも無くなってしまうのかしら」「私は、死んでも続きがあると思うわ」「どうして」「その方が楽しいじゃない」「私が死んだら」「は?」「なんでもない」チェリーはそのまま廊下を歩いて行った。ローズがやってきてカトレアに声をかける。


「どうしたの?」「死んだらどうしろっての?」「なにそれ」「わからない。でも嫌な予感がする」


チェリーはクラン中を歩きまわってシルベチカの妄想を打ち消す証拠を探した。だが、何も見つからなかった。こっちまで気が狂いそうよ。。。チェリーはそう呟く。


「どうなさいました?」やることがなく所在なげにしていたマリーゴールドがチェリーに声をかける。外部の者であるマリーゴールドにクランのことを話しても伝わるかどうか。スノウがやってきて勝手にクランの生徒と話さないでもらいたいと言う。マリーゴールドは世間話ですよ?というが、スノウは出て行って、とだけ言って立ち去った。チェリーはマリーゴールドにあてて事の顛末を記した手紙を書くことに決めた。その姿を窓から冷たく見つめているシルベチカ。


シルベチカがチェリーの部屋に現れ、自分の犯したことは過ちだったという。だがこのことはみんなに知られたくないという。誰にも話さないと約束してくれるなら血清剤を渡すという。チェリーはそれは出来ないといい、真実を告白してほしいという。どうしてもダメなの?というシルベチカにチェリーは言った。


「次は私なんでしょ?」「違うわ、信じて」「無理ね」「私、誰も殺そうと思ってないです」「嘘よ」


「殺す気だから、私以外に知られたくないんだわ」「私が死ねば、またあんたは同じことを繰り返す」


シルベチカの顔から表情が消えた。「じゃあ、どうすればいいんですかチェリー先輩」


豪雨の日。カトレアの部屋をノックする音が聞こえる。毛布に潜り込むナスターシャム。カトレアは服の前をしっかり閉じるとドアを開けた。立っているチェリー。


「なによいったい」「あんたに頼み事があんのよ」チェリーは一通の手紙をカトレアに渡すと、これをマリーゴールドに渡して欲しいといった。自分で渡せば?と言うカトレアに探したけど見つからなかった、時間がないので頼みたいというチェリー。時間?なんの時間?カトレアは聞いたが、チェリーは急ぐからといって廊下を歩み去っていった。


マリーゴールドに手紙を渡すカトレア。それでチェリーさんは?わからない、どこかに行ってしまったとカトレア。それにしても酷い雨だとマリーゴールド。ここは年中こんなものよとカトレア。空から降ってくるのは雨ばかりじゃないっていう歌、知っていますか?と、手紙を読みながらマリーゴールド。知らないけど、何が降ってくるの?とカトレア。答えようとしたマリーゴールドの表情が変わった。


「カトレアさん、チェリーさんどこへ行ったかわかりますか?」「だからわからないって」「探してください、大変なことになる前に!」


塔の上。チェリーとシルベチカが立っている。お互いを太いロープで繋いでいる。死ぬのは嫌、シルベチカが言う。でも他に償う方法があるっていうの?とチェリー。



手紙「なぜシルベチカが狂ってしまったのかはわかりません。でも、彼女をこのまま放っておけば、次は私、そして、更に誰かの命が奪われるでしょう。私はシルベチカの親友としてそんなことをさせるわけにはいかないと思いました。誰かがシルベチカを止めなければなりません。私は、彼女に心中を持ちかけました。頭のいい彼女のことです。生半可な方法では死んだふりをして生き延びようとするでしょう。だから私はお互いをロープにつないで高い塔の頂から飛び降りることを提案しました。シルベチカは狂っているのは私だといいます。ですが、私にはこうするよりもう他に方法が見つかりません。本当に私たちが永遠に同じ時間を生きているのかどうか。私たちを葬ったあと、どうかそのことを調べてください。私の永遠はここで終わりです。どうか残されたクランの仲間たちにTRUMPの加護がありますように」




二人は行くよ、と声を掛け合うと、塔の上から飛び降りた。





塔の下。目を見開いたままチェリーが死んでいる。一人で。ロープの端は結ばれていなかった。


チェリーの墜死体を囲むスノウたち。ロープがナイフなどで切られていないことを確認するマリーゴールド

現れるシルベチカは、今日はキャメリアと一緒だったという。うなずくキャメリア。


「僕らは朝からずっと。。。愛し合っていて。。。」


キャメリアを殴り飛ばすカトレア。羽交い締めにして止めるローズ。マリーゴールドはチェリーの死を嘆き、空から降るのは雨だけじゃないと呟く。訊くカトレア。



それは、涙だった。