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行く先不明の競馬blog

例のアレ

工藤遥卒業お祝い作品W


「医者はいるよ」

ニューヨーク。

ソフィにしつこくつきまとうビリー星野。子どもたちに危害を加えないかと不安なリリー。紫蘭は本当にビリーという名前に聞き覚えがないという。金を握らせ「もう二度と僕や家族の前に顔を出さないでくれ」と言うソフィ。

「あんたがあの女に会わせてくれたらいつでも消えてやる」とビリー。拒むソフィ。金ならくれてやるから失せろというソフィ。

「お前は人が燃えるところを見たことがあるか?」と聞くビリー。答えないソフィ。お前みたいなお坊ちゃんには想像もつかないような光景を俺は見てきたというビリー。ベトナムカンボジア、そしてクラン。

「お前だって愛する者が目の前で火だるまになって死んでいく姿を見れば考えが変わるさ」とビリー。

僕はどうなってもいい。頼むから家族には手を出さないでくれというソフィ。あの女に伝えろ、クランに俺を連れて行くか、燃えて灰になるか、選べってな。

「燃えて灰になる。。。本当にその男がそういったのかい?」真剣に話を聞く紫蘭。怯えるリリー。母親の不安が伝わるのか子どもたちも不安そうだ。あの男は狂ってるんですよというソフィ。

「燃えて、灰になる、ねぇ」何かを思い出すように呟く紫蘭

夜。

紫蘭に「もうこれ以上耐えきれない」というリリー。クランの秘密は守られなければならないんだよ、わかるね?と紫蘭
「でも、あの人や子どもたちが!」
「お前ならあのビリー星野を焼くことは簡単だろう。文字通り灰にすることだってできる。でも、それでお前幸せになれたかい?」
言葉を失ってしまうリリー。
「お前はあの日、マリーゴールドを焼いた。怒りに任せて灰にしてしまった。あたしたちが地下室に駆けつけた時にはもうなにもかも終わっていた。いいかい、もうお忘れ。クランで起きたことクランで見たこと、それはわたしたち"監督生"が覚えていればいい。クランを出たお前たちは忘れてしまっていいことなんだよ」?
マリーゴールドは、友達だったのよ。。」リリーの頬を伝う後悔の涙。

「"あれもいつかは死なねばならなかったのだ、一度は来ると思っていた、そういう知らせを聞くときが。あすが来、あすが去り、そしてまたあすが、こうして一日一日と小きざみに、時の階を滑り落ちて行く、この世の終りに辿り着くまで。いつも、きのうという日が、愚か者の塵にまみれて死ぬ道筋を照らしてきたのだ"」

「(怪訝そうに)なに?」
ウィリアム・シェイクスピア、”マクベス”さ」

セントラルパーク。子どもたちと遊んでいるソフィ
それを遠目に見ながら紫蘭「あの子も間もなく死ぬ。お前はそれまであの子を見守り続ける。それがお前がここに来た意味だったはずだろ?死んでいったクランの仲間のためにも、あの子は幸せに死んでいかなければならない運命を背負っているんだよ」
リリー、手を握りしめている。爪が手のひらに突き刺さり、血が流れる。リリーの子供がそれに気づき驚いてソフィに知らせる。ソフィ、手早くリリーの傷の手当をすると、子どもたちと一緒に先に帰そうとする。そこに現れるビリー。

紫蘭さん」「やっとあんたを追い詰めたぞ」「化け物め!」「人間の皮をかぶったひとでなし!」

ビリーを睨むリリーの目が光る。紫蘭がそれに気付いて手を握って小さく「およし!」「二度と元の生活に戻れなくなるよ!」と囁く。

「俺をクランに連れて行け!」「君は気が変なんじゃないか?」押し問答になるソフィとビリー。

「ドクター!」どこかでソフィを呼ぶ声がする。こんな時に何だ?ソフィは一瞬その声に気を取られる。

「ドクター!起きてください!急患です!」ソフィが気がつくと若い女が目の前にいる。「ドクター!」

ソフィはいきなり眠りを破られて、いささか腹立たしげに「今日は僕は宿直じゃないだろ。当番のドクターかERに頼んでくれよ。僕は体調が最悪なんだ」と答えた。ここ最近で一番体調が悪い。もう治療の効果がどうしようもなく出ていないことを思い知る。頭が重く、絶望的な吐き気がする。だがなぜかナースは許してくれない。

「ドクター!他の先生はいません!お願いします!重傷の患者さんなんです!」

(なんだこのナース。。。いいかげんにしろよ。。。僕は血液科なんだぜ?輸血ならともかく、外科のドクターはどうしたんだ?)

ソフィは仕方なくベッドから起きると白衣を着て薄暗い廊下を歩きはじめた。

(なんだここ?うちの病院にこんな通路あったか?)

案内された診療室。女が二人、ストレッチャーの上の患者を囲んでいる。患者は腹部から大出血しているようだ。どう見てもこれ僕の担当じゃないだろ。。。ソフィは首をひねった。「それで?」

「患者は18歳、女性、血液型O、腹部に刃物による刺し傷、応急処置を施しましたが出血が止まりません!」

「いやそんなこと言ったってね、君」患者に近づくソフィ。だが、患者の顔を見た瞬間、ソフィの表情が凍った。

「なんだ」「またこの夢か」「おかしいと思ったんだ」「なんでいつも同じ夢を見なきゃならない?」目に涙を浮かべ、ベッドの前にひざまずくソフィ。

「君を助けたかったんだ」「でも助けられなかった」「愛していたのに」「どうしてやることもできなかった」「ごめんよ」「また君を助けることは出来ないんだ」「リリー」

カトレアが目の前の光景を信じられないものを見るような目で見ている。

(どうしてファルスがここに?なんでマリーゴールドのことをリリーって呼ぶの!?)

スノウが必死にファルスに呼びかける「ドクター!違います、これはリリーではありません、マリーゴールドです!」

「気休めはよしてくれ。わかってるんだ、僕にはどうにもならなかった。すまないリリー、君をまた助けてやることは出来ない」「愛していたのに」「どうしてやることもできなかった」首を振って涙を流すファルス。

しびれを切らしてファルスに歩み寄りその頬を張り飛ばす紫蘭

「いい加減におし!目の前に死にかけの患者がいるんだよ!寝ぼけるのもそこまでにしたらどうなんだいお前!向こうで一人前の医者になったんだろ!?」

ファルスはびっくりして紫蘭の顔を見る。そして、キョロキョロとあたりを見回して

「母さん?」「あたしがお前の母親じゃなかったら一体誰だって言うんだい!?」「いやでも、え?なんで病院に?」「病院じゃないからだろ!?」

ファルスは治療室をぐるっと見回して、窓の外を見る。雨が激しく降っている。まるでクランのように。

「ドクター!」スノウが必死にファルスに呼びかける。ファルスは再びマリーゴールドを見る。苦しそうな土気色の顔。腹部から大出血。。。ファルスはそこで正気に返った。

「なんでこんなことになった?」カトレアに聞くファルス。

「私がいけないの。私がしっかりしてなかったから。。マリーゴールド、刺されて」「刃物は?ナイフ?」「あの子、ナイフを隠し持ってて、いきなりマリーゴールドのこと刺したのよ!」

「ナイフか。。。君!クーパー!」ファルスがスノウに声をかける。どうもファルスはスノウのことをナースと思い込んだままのようだった。戸惑うスノウ。ファルスが怒鳴る。

「ハサミだよハサミ!患者の服を切って患部を露出させなきゃ診察できないだろう!?時間がないんだ、早くして!」ぎこちない手で手術道具を渡すスノウ。

「頼むぞ。。。浅い刺創であってくれ。。。」祈るようにマリーゴールドのブラウスを切っていくファルス。だが傷口を見てファルスの表情が曇る。

「どうなんだい?」顔を寄せる紫蘭「だめですね。ざっくり行ってる。開腹して、縫合するしか」「お前、できるのかい?」「僕は血液科ですよ?外科のドクターが必要です。。。ここじゃだめだ。救急車を呼んで下さい」
「だめです!救急車は呼べません!」スノウが叫んだ。ファルスは不愉快そうに「患者が重篤なんだ!呼べなくても呼ぶんだよ!何だ君はさっきから!どこの医局だ!?」とスノウを詰る。

「ドクター、ここはクランです。救急車は来ません。だからドクターに来てもらったんです。ドクターに治療をお願いしたいんです」

(クランだって?)ファルスは周囲を見回した。時代がかった、戦前のものと思われる、しかし金の掛かった医療設備。しばらく使っていないのか錆びついたものもある。

「君、クランにこんな立派な診療所はなかったよ。ここがクランのはずがないだろ」「クランです」頑なに引かないスノウに戸惑うファルス。

「クラン、なんですか?」紫蘭に改めてたずねるファルス。そんなことどっちだっていいだろ!と答える紫蘭

「どっちでもよくないですよ。どうして僕はいきなりクランにいなきゃならないんですか!?」「そうだ、さっきまでセントラルパークにいたはずなのに」「それに、なんで母さんがクランにいるんですか。母さんクランに戻らずに治療を受けてくれるって約束したでしょう!」

「お前、患者を手術するのかどうするのか、まずそれをお決め!」苛立つ紫蘭「どうしてこんなことになったのかあたしにだってわかりゃしないよ!」「あたしのほうが知りたいくらいさ!」

「私がいけないの」カトレアがポツリと言った「私が繭期になっちゃったから」

カトレアが事の顛末を話しだした。この診療室を掃除してまた使えるようにしたいと紫蘭が言い出したのがことの始まりだった。マリーゴールドたちと一緒に診療室に入ったカトレアはそこで虐殺される少女たちの断末魔を幻視する。血まみれの少女たちの前で嘆き悲しむ若い男、そして3人の女。カトレアは殺された少女の一人がピーアニーであることを思い出す。ピーアニーは温室に埋まっているというカトレア。紫蘭とスノウはキャメリアに頼んで遺棄された温室の花壇を掘り返し無数の白骨死体を見つける。そこに残された遺品から行方不明になったはずのクラン生たちの遺体であることがわかるが、紫蘭は「酷い事するもんだねぇ」とだけ呟いてキャメリアに埋め戻しを命じる。君たちが殺したってカトレアは言ってるんだろう?とキャメリア。だったらわざわざ掘り返させるかい!と怒鳴る紫蘭紫蘭は死の床についたファルスの傍らに座り今日見た地獄のような光景を語って聞かせる。お前さえ元気ならねぇ。。。涙を流す紫蘭。カトレアは繭期の重篤化が著しく、マリーゴールドの助手は無理だろうという結論になった。ベッドに横たわるカトレアに報告に行くマリーゴールド。首を激しく振って拒絶するカトレア。お願いだからここにおいて行かないで!とマリーゴールドにすがるカトレア。マリーゴールドは「繭期が良くなったらまた」と言うがその嘘を見抜くカトレア。この力は繭期のせいじゃない、繭期になる前からこの力はあったという。かわいそうだとは思うけど、と、心を鬼にして出ていこうとするマリーゴールドの手を握るカトレア。はっとするマリーゴールドに「行かないで、マリーゴールド、こんなところに置いて行かないで!」と泣きながら言うカトレア。

カトレアのすがるような目。握り締める手。マリーゴールドの記憶にフラッシュバックする遠い過去の思い出。

マリーゴールド紫蘭たちにカトレアのサポートは自分がするからなんとか助手を続けさせてやってくれないかと話し出す。他人に関心を持たないマリーゴールドの申し出に驚く紫蘭とスノウ。だが、マリーゴールドの身は常に教団の刺客に狙われている。カトレアをかばって自分の身を守るのは不可能じゃないのかいという紫蘭。自分ひとりの身も守れないくせにお人好しも大概にしなさいと諌めるスノウ。マリーゴールドはスノウの言葉を無視して紫蘭に許可を求める。口論になるマリーゴールドとスノウ。紫蘭が一喝して二人の言い争いを止めるがスノウは「もうあなたのことはたくさんよ」「うんざりなのよ!」と吐き捨てて部屋を出て行く。だが紫蘭は「スノウが心配してるのはお前さんの方だからね?」と言う。

「わかってますよ」「それくらい」「わたしだってそれくらいわかってるんだ」寂しげなマリーゴールド

そこにナスターシャムが飛び込んできてカトレアが繭期の発作を起こして!と叫ぶ。カトレアは中庭に立ちクラン生たちを指差すとその死に様をひとりづつ予告していく。シルベチカに「あなたは死ぬわ。塔から落ちて、まっ逆さに落ちて死ぬのよ」「誰もあなたを救えない」と言うカトレア。顔面蒼白のシルベチカ。マリーゴールドたちがやってきてカトレアに病室に戻るよう言う。カトレアはマリーゴールドを見ると「マリーゴールド、あなたが死ぬ姿が見える。あなたが女の子にお腹を刺されて血の海に沈む姿が見えるわ」そうつぶやいく。呆然とその場に立ち尽くすマリーゴールド。監督生室。紫蘭、スノウ、マリーゴールドマリーゴールドは苦笑しながら、まさか自分の死を予告されるとは夢にも思わなかったと言う。スノウは真面目に考えなさいよ!あなた死ぬのよ!と怒る。カトレアの繭期どころの話じゃなくなってきたねと紫蘭

「わたしはある人物を探してこのクランに来たんです。その人物を追い詰めるのがわたしの生きる意味で、目的でした」「でも、どうやらそれは叶わないらしい」途方に暮れるマリーゴールド

お前、それ、前から言ってるけど、それはいったい誰なんだい?と尋ねる紫蘭マリーゴールドは、言いづらそうに言葉を選びながら「ようするに、安っぽい言葉で言うなら」「復讐です」と言った「死んだ母の」任務上それ以上は話せないというマリーゴールドに復讐の無意味さを解く紫蘭

「意味があるかどうかはわかりませんが、どうやら、私はここまでのようです」「あとは、仲間に任せます」

「仲間なんていないくせに!」吐き捨てるように叫ぶスノウ。「仲間なんていないくせになんでそんな強がり言うの!」「あなたに仲間なんて」「このクランの外に仲間なんているわけないじゃない!」「クランにいたときだって」「友達だって一人もいなかったくせに!」強い口調でマリーゴールドを責め始めるスノウ。答えられないマリーゴールド

ナスターシャムに付き添われたカトレアが部屋に入ってくる。涙を気づかれまいとするスノウ。カトレアは私がマリーゴールドを守ると言う。無理だよと紫蘭

紫蘭マリーゴールドに大事な話があるという。ファルスの病床の前で二人きりで話をする紫蘭マリーゴールド。あらたまって話ってなんです?と聞くマリーゴールドに、お前、誰なんだい?と切り出す紫蘭。言われていることの意味がわからないマリーゴールド。私は、私ですよと答えるマリーゴールド。だが紫蘭マリーゴールドにこう告げる

「お前は死んだんだよ」「ここで、このクランで」

紫蘭は事件のあらましを話して聞かせる。クランの中で生徒同士の諍いがあり、紫蘭たち監督生が地下室に飛び込んだ時、そこには狂った少女とマリーゴールドの焼死体、そして血まみれになって死んでいる男子監督生の遺体が横たわっていた。少女は「死ねない!死ねない」と叫んでナイフを自分の身に突き立て続ける動作を繰り返していたが、そのナイフは監督生の背中に突き立っており、ソフィが土壇場で抱きついて少女が自分の胸に突き立てようとしたナイフを背中一面で受け止めたらしいことがわかった。スノウは呆然とそこに立っていた。なにもかも終わったあとだった。少女は本部の判断で外の精神病院に送られ、スノウはクラン生にたち向けてわだかまっていた本心をぶちまけたあと監督生を辞めた。そしてマリーゴールドとソフィの葬儀が雨の中行われた。

「お前のフィアンセだったね。死んだあの子は」申し訳なさそうに話す紫蘭

マリーゴールドは「そんなバカな」といったきり何も話さなくなった。傍らで眠り続けるファルス。

「死んだはずのお前がなぜまたわたしたちの前に現れたのかあたしたちにもよくわからない」「でも、こうして話しているとお前は間違いなくマリーゴールドじゃないかと思えて仕方ないのさ」「でも、もしかするとマリーゴールドのふりをした別人なのかもしれない」「でもね、カトレアの言ったことは本当さ。あの子がここに送られてきたのは、あの子が死を予告する子供だったからだからね。あの子のビジョンは、当たるというより、起きるようにしてしまう力なんだと思う」「イレギュラーなんだろうね」「いずれにせよこのままじゃお前は死ぬ」「死んでほしくないのさ、マリーゴールド。あたしもスノウもお前に生きてほしいのさ」「もしお前が本当にあのマリーゴールドで、神様の奇跡で生き返ってあたしたちのところに戻ってきてくれたなら」「もう死んじゃいけない」

「死んだなんて、そんな」なんと返事すべきかわからないマリーゴールド。クランがセリフを詠唱する。

『あれもいつかは死なねばならなかった、このような知らせを一度は聞くだろうと思っていた。明日、また明日、また明日と、時は小きざみな足取りで一日一日を歩み、ついには歴史の最後の一瞬にたどりつく、昨日という日はすべておろかな人間が塵と化す死への道を照らしてきた。消えろ、消えろ、つかの間の燈火! 人生は歩き回る影法師、あわれな役者だ、舞台の上でおおげさにみえをきっても出場が終われば消えてしまう。白痴のしゃべる物語だ、わめき立てる響きと怒りはすさまじいが、意味はなに一つありはしない』

シェイクスピア?」

「ああ。あたしはマクベスは初演で見たからね。あたしが言いたいのは、人はいつか必ず死ぬ、でも、それはいつでもいいだろうって言うことだよ」「マリーゴールド、死なないでおくれ。あたしたちはお前の葬儀を二度やりたいとは思っていないんだよ」「あたしも、スノウも」「お前が死んでしまって残ったスノウがどれほど苦しんだか」「あの子の願いも、一度でいい、叶えてやってくれないかい?}

「お前たち、親友だったじゃないか」紫蘭は言った。

マリーゴールドは、行方不明になったクラン生の行方を探す仕事に就いた。そのほとんどはクランを出て間もなく繭期の悪化で死んでいたが(ウルを飲めないので)それでも死んだことはきちんと確認しなければならないということだった。だが、アネモネと呼ばれる少女の一人がクランから逃げ出したあとも存命で、名前を変えて人間に混じって暮らしていると本部から連絡が来る。彼女の口からクランのこと、ひいてはヴァンプ社会のことを「真実」として語られるのは極めて好ましくない。もはや現代社会においてヴァンプは作り話の中の存在であり、現実の隣人であるとは誰も思っていないのだ。本部は「秩序を守るため」彼女をクランに連れ戻すよう指示していた。簡単な任務だったが問題はカトレアの見た死のビジョン、そして教団の動向だった。繭期の症状が治まらず発作的に本人にさえ意味のわからないビジョンに悩まされるカトレアを伴ってマリーゴールドは「最後の任務」に向かった。

マリーゴールドは考える。時系列がおかしい。あの人が死んだと聞いて私は初めてこのクランに来たはず。でも紫蘭は事件のときに私はクランにいたと。しかもその時、私は死んだんだと。そんなはずはない。どこかに嘘がある。そもそも死んでないじゃないか、私。

予想通り、教団による襲撃があり、一度はマリーゴールドが、二度目はカトレアが退けた。執拗に追跡してくる教団の車両を狙撃させるマリーゴールド。カトレアは何度か仕損じたが最後には炎上させることに成功した。カトレアがマリーゴールドが死ぬ姿を見たときに一緒に見たのはこの風景か?と繰り返し確認するマリーゴールド。首を振るカトレア。

(こんなところで死んでたまるか。。。!)必死に車を走らすマリーゴールド

アネモネさんですか?」マリーゴールドがドアを開けて顔を見せた若い女に尋ねる。女は顔色を変えてドアを閉めてしまう。ドアをノックして「クランから迎えに来たんです。クランに帰りましょう」と事務的なことばを繰り返すマリーゴールドアネモネは裏から逃げようとするが待ち伏せしたカトレアに見つかってしまう。

「お願い、クランには戻りたくないの」「見逃して」すがるように繰り返すアネモネマリーゴールドは「それはクランに帰ってから御館様に願い出てもらえば」と意に介さない。お願いよ、あんなところには帰りたくないとアネモネは嫌がるが、無理やり車の後部座席に乗車させるマリーゴールド。顔を覆って嗚咽しているアネモネ。帰ったら私、あいつらに殺される。。。絶望の言葉をつぶやく。尾行車を警戒するマリーゴールドアネモネの言葉を取り合わない。カトレアはアネモネにクランに戻るだけだから心配いらないわと言う。

「あなた達はクランのことを知らないのよ。。。!」アネモネは首を振る。話を聞かせてというカトレアに「周囲に気を張ってください」「私たちはその人の身の上話を聞きに来たんじゃない」ときつく言うマリーゴールド。不満げなカトレア。

マリーゴールドはクランにほど近い納屋に車を隠すと、制服を渡してここで服を着替えるようにアネモネに言う。泣きながら嫌がるアネモネの服を乱暴に脱がせていくマリーゴールド。納屋からクランの制服に着替えたアネモネマリーゴールドと現れる。泣きじゃくるアネモネを後ろから促して歩かせるマリーゴールド。カトレアはあなたのこの人への態度はひどいわ、残酷よ!とマリーゴールドに抗議する。クランに帰るのはいや。。。泣きながらクランへの道を歩かされるアネモネ。クランの塔が遠くに見えた瞬間、カトレアが不意に思い出した。

マリーゴールド!」「(不愉快そうに)なんです?」「ここよ!この景色だわ!」

慌てて周囲を見るマリーゴールドアネモネからマリーゴールドの意識がそれた瞬間、隠し持ったナイフでマリーゴールドを刺すアネモネ。刺された瞬間、あっとなるマリーゴールドだが避けきれずにそのままざっくりと腹にナイフを突き立てられてしまう。カトレアがアネモネを突き飛ばす。その反動でナイフが抜け、大量の血が溢れ出す。マリーゴールドの名を叫ぶカトレア。

「私、モルモットにされるために生まれたんじゃない。。。!」泣きながらそう訴えるとアネモネは森の中に駆け込んでいく。

大量の出血に立っていられなくなるマリーゴールド。ここか。こんなところが私の最後の場所なのか。小さく呟くマリーゴールドを必死に支えるカトレア。マリーゴールドアネモネを追えというがカトレアは命令を聞かない。マリーゴールドはその場に座り込むと動けなくなる。クランに行ってくださいというマリーゴールド。迎えをよこして私をクランに運び込んでください。

「わたしたち吸血種は、この世界には”いない”ことになってるんですよ。こんなところに私の死体が転がってたら不味いことになる」「人間にヴァンプの死体を調べさせる訳にはいかない」「クランの秘密は守らなきゃならない。カトレアさん、行ってください」失血で体を震わせながらマリーゴールドが言うがカトレアはマリーゴールドを担ぎ始める。私の責任よ、私があなたを助けるとカトレア。拒む体力もなくカトレアに引きづられるように担がれていくマリーゴールド

クランに近づくに連れて雨足が激しくなる。マリーゴールドは寒さと失血で次第に正気を失い、今までの人生の後悔を語り始める。クランに戻って元気になったらもうこんな残酷なことはやめましょうというカトレアに、残酷なんてこんなもんじゃない、わたしの知る残酷はもっともっとどうしようもない現実だったと嗤うマリーゴールド

「TRUMPに残酷を捧げれば願いが叶うと言うなら、わたしの残酷はとうに捧げたましたよ。手持ちの残酷はもう種切れ。これ以上どうしたらよかったっていうんですか?」

ヘラヘラと笑いながらぼやき続けるマリーゴールド

「母さんに愛されるような子になりたかった。でも生まれて来ない方が良かったっていうなら私、どうしたらよかったの」「生まれてこなければよかった」「生まれてこなければよかった」「生まれてきたことだけが私の後悔」「こんな残酷、ありふれた残酷、わたしの残酷」「TRUMPなんてインチキ」「残酷なんて何の役にも立たない」「母さんを返して」「返して」「返して」

マリーゴールドは立っていられなくなり、やがてその場に座り込んで動かなくなる。「行ってください」と手で合図するマリーゴールド。引きずってでも連れて行こうとするカトレアだがマリーゴールドはもう動けない。泣きながら一人で歩き出すカトレア。それにしても自分が人生の最後に見る風景がカトレアの背中になるとは思わなかったな、ぼーっとそう考えているマリーゴールド

豪雨。誰かがクランの通用口の扉をたたき続けていることに下級生が気づく。紫蘭は訝しむがその叫び声は1時間位前から聞こえているという。スノウが用心しながら門を開けるとそこにずぶ濡れのカトレアが立っていた。血だらけのブラウス、泣き腫らした目。スノウは何があったのかを理解してカトレアの来たと思われる道へ駆け出していく。

治療室に運び込まれるマリーゴールド。もはや助かる見込みはないように思われた。

「お医者様を呼んで!お願い!」紫蘭にすがるカトレア「私がいけないの。私があの子に同情して気を許したから」「マリーゴールドを助けて、お願いよ、紫蘭、助けて!」

スノウはマリーゴールドの傷口を見てとても私には無理と言う。私は学校で看護の勉強はしたけど医者じゃない。でもキャメリアならとスノウ。キャメリアにクランの秘密を明かす訳にはいかないときっぱり言う紫蘭

「どうしてお医者様を呼べないの?!マリーゴールドが死んじゃう!マリーゴールドが死んじゃう!」

泣きながら紫蘭とスノウに詰め寄るカトレア。

診療台の上で痙攣するマリーゴールド。出血が床に血溜まりを作っている。スノウはその傍らにひざまずくと目を閉じて祈りを捧げる。「医者かい」「医者よ!お医者様を呼ばないとマリーゴールドが死んじゃう!」「医者ねぇ」「お願い!お医者様を呼んで!」「医者がいれば、いいわけだね」スノウの背中越しにカトレアと紫蘭が噛み合わない口調で言い争っている。スノウはもう助からないと思った。後悔の念だけがスノウの中で渦巻く。

「医者は、いるよ」紫蘭が重い口を開いた。

「医者はいる。このクランにいる。あの子なら、ここにいる」その言葉に唇を噛むスノウ。

「どうだろう。もう他にて手立てはないようにあたしには思える」「あとは、スノウ、お前が決めていいんだよ?」優しく言う紫蘭。スノウはスノウは震えている。「嫌よ」「マリーゴールドと会わせるなんて、嫌よ」呟くスノウ。「あたしは覚悟を決めた」「もうそろそろ、隠し事は終わりにすべき時期に来たんじゃないかと思う」「でも、お前がどうしても嫌だというなら、マリーゴールドのことは諦めよう」「あたしは、お前が望んだどおりの結末でいいと思う」

「あなたは、卑怯よ」スノウが震えながら言う。「わたしだって、マリーゴールドを死なせたくない」「でも二人は会ってはいけない」「会ってほしくないのよ!」「二人が会ったら、わたしなにするかもう自分でもわかんないのよ!」「わたしだって苦しいわ紫蘭」「ずっと、ずっと、苦しかったのよ」「これ以上なにを苦しめばいいの!」言葉を振り絞るスノウを落ち着いた目で見つめる紫蘭

「あの子を呼んできておくれ」「お前が、呼ぶんだよ?」紫蘭はスノウを抱きしめながら言った。スノウは泣きじゃくっている。その姿を見つめるカトレア。

スノウをよろよろと診療室を出ていった。紫蘭マリーゴールドの頬を撫でると、お前、聞きたい答えにたどり着けるかもしれないよ、と囁いた。

そして、白衣を着たファルスが部屋に入ってくる。

「患者はどこ?」「「おい君!そんな格好で治療室に入っちゃダメだ!」ファルスはカトレアを厳しい口調で叱り飛ばす。医者がやってきた。






ファルスはカトレアの話の半分も理解できなかったが、何かのトラブルでナイフで刺されてことだけは理解することが出来た。

「それでお前、手術、できるのかい?」紫蘭が真剣な口調でファルスにだずねる「僕は血液科です。輸血をすることは出来ますが、開腹しての外科手術は専門じゃない。救急車を呼びましょう」「だめなんだよ!それができるくらいならお前を起こしたりしないんだよ!」「この子の命にかかわるんですよ!?」

その時、診療室のドアが激しく叩かれて男の声がした「スノウ!紫蘭!誰か怪我でもしたんじゃないのか!下級生が血相を変えて僕のところに飛んできだぞ!ここを開けてくれ!そこにいるんだろ?!」

顔を見合わせるスノウと紫蘭。「あの間抜け、こんな大事な時に!」「誰です?」たずねるファルス。

「キャメリアだよ。お前、覚えてるだろ?」「キャメリアがクランに来てるんですか?」ばつの悪そうな顔で紫蘭の方を見るファルス。紫蘭は頷くとカトレアに診療室のドアを開けさせる。入ってきたキャメリアに顔を見せないように背を向けるファルス。だが、キャメリアはファルスを見つける。

「おい、いったいこれどうなってるんだ!」「いよう、久しぶり」ぎこちなく挨拶するファルス。キャメリアはファルスの態度に腹を立てて「君、死ぬんじゃなかったのか!いったいどういうつもりなんだこれ!この茶番の意味を説明してくれ!」と詰め寄る。

静かにおし!怪我人がいるんだよ!とキャメリを諌める紫蘭。キャメリアはそこでようやく横たわるマリーゴールドに気がついた。顔色を変えるキャメリア。

「説明はあとだ」「君、開腹やったことあるか?」キャメリアに白衣を着せる様スノウに指示しながら話しかけるファルス。「僕は医者じゃないぞ」「知ってるよそれくらい。でも、盲腸を切ったことがあると聞いたぞ?」「なんで君がそんなこと知ってるんだ」「あの子が教えてくれたんだ」カトレアを示すファルス。

「そりゃ、医者のいないクランで、外の医者を呼べないこともあるから、見よう見まねでやってみた」「何例くらい切った?」「さあ、10人位かな。。。君、医者みたいな話し方するんだな」「医者になったんだ」

「いつだよ?」「クランを出たあとさ」「君、いつクランを出たんだって聞いてるんだよ!」

ファルスは都合の悪そうな質問は考えないようにしてカトレアの血液型がマリーゴールドと合うことを確かめている。カトレアに輸血について説明するファルス。スノウが納屋に隠してあったブレーカーを上げ、手術灯に明かりが灯った。手術台にマリーゴールドを載せるファルスたち。マリーゴールドの衣服をハサミで切っていくファルス。裸になるマリーゴールドを見て恥ずかしそうなキャメリア。

「じきに慣れるよこんなもんは」キャメリアに軽口を聞くファルス。

「すまなかった」「なんだって?」キャメリアにクランに戻れなかったことを詫びるファルス。言われていることの意味がわからないキャメリア。「君が僕のことを恨んでいるってことは母から聞いた」紫蘭を見るファルス。「でも、僕は君たちのことを助けたかったんだ。やっと、それができる。こうやって、医師として」

スノウに麻酔を指示するファルス。納屋から戻ってきたばかりのスノウはあたふたしながらファルスの言うとおり注射器を用意する。消毒を施し、麻酔を打つファルスはマリーゴールドから離れるとキャメリアに言った。

「あとは僕が全部サポートするから」「任せますよ、ドクター・キャメリア!」キャメリアは震える手でメスを握った。その光景を不思議な気持ちで見つめているカトレア。

夜明け前。手術が終わった。傷口を縫合するファルス。縫合なんて医大生時代に実習でやって以来だというファルスに、君は手が不器用だからなぁとキャメリア。

スノウに抗生剤の投与時間を細かく指示するファルス。キャメリアは白衣を脱ぐと、ファルスに「僕はもう寝るよ」「もうくたくただ」「だがその前に言っておくことがある」と言う。

「逃げるなよ」「こんな訳のわからないことに巻き込んでおいて」「逃げたら今度こそ本当に絶交だからな!」そう言うと治療室を出て行くキャメリア。やれやれとファルス。入れ替わりに入ってくるナスターシャム。名前を聞くファルス。マリーゴールドの友達かい?というと、カトレアとマリーゴールドの横たわるベッドを示す。駆け寄るナスターシャム。その姿を見ながらそそくさと治療室を出ようとする紫蘭を呼び止めるファルス。

「母さん」「あたしも眠いんだよ」「説明してください」「明日にしておくれよ、年寄りは体が弱いんだからさ」「なんでここはクランなんですか?なんで僕はクランいるんです?そもそもなんで母さんがクランにいるんですか!」「明日にしておくれよ、明日話すからね」そそくさと逃げていく紫蘭。やれやれとファルス。

「君、ここがクランだとしたら客間があったろ?客間を貸してくれないか。僕ももうクタクタだよ」スノウに声をかけるファルス。目に涙をいっぱいに貯めているスノウ。

「君、そう言えば名前は?」答えないスノウ。とにかく無愛想なナースだなと思うファルス。

客間に通されるファルス。着替えがクランの制服なのを見て「僕はいくつだと思ってんだよ」と苦笑する。スノウは頭を下げて部屋を出ようとするが、どうしても堪えきれずに言ってしまう。

「愛してるわ」「ソフィ、わたし今でも愛しているわ」「あなたのこと、愛してる」

訝しむファルス。その反応を見て、凍ったような表情で涙を流し、ゆらゆらと部屋を出て行くスノウ。スノウは泣きながら廊下をあてどもなく歩いて行く。残されて首をひねるファルス。

「なんだいあれ」「会ったこともない女性にいきなり愛の告白されてもなぁ」ベッドに入ってやがて眠りにつくファルス。

翌日。不安げな表情で監督生室のドアをノックするキャメリア。中から返事があり入室すると、紫蘭とファルスがこちらを向いている。ホッとした表情のキャメリア。

「逃げなかったな、おい」「逃げるってなんだよ人聞きの悪い」「君が、また、いなくなってしまうかと思った」言葉の出ないファルス。

何の用だい?と紫蘭。キャメリアはマリーゴールドの容体が安定してきたという。おそらく手術は成功したろうと。ほっとするファルス。こんな田舎に呼び出されて患者に死なれたら僕は何しにここに来たのかわからないと言うファルス。それなんだけどさ、君、昨日から一体何を言ってるんだ?とキャメリア。

「君、クランからいつ出たんだ」「10年前さ」「いつの10年前だ」「君だって知ってるだろ、僕がリリーとクランを出たってこと」「出てないだろ」「出たよ」「出てないだろ。夢でも見てるのか君は?」噛み合わない二人の会話。

「君とリリーがクランを出る予定だったのは確かさ。でも直前になって君が倒れて、取りやめになったじゃないか」「いや、出たんだよ。倒れたのはそうだけど、僕は出たんだよ、今、ニューヨークで医者をやってるんだから。クランを出てなかったらウッドストックにも行けなかったろうよ。君、なにおかしなこと言ってるんだ?」
紫蘭は何かを言いかけたが、シルベチカがやってきてキャメリアを呼び出した。キャメリアはこの話はまたあとだ、と言って出ていこうとしたが、思い出したように振り返って言った。

「なぁ、色々言ったけどさ、ファルス」「何だよ改まって気持ち悪い」「消えないでくれ」「え?」

「お願いだ、もう僕らの前から消えないでくれ、頼む」そう言うとキャメリアは部屋を出ていった。

ファルスはキャメリアが嘘を言っているようには思えず、紫蘭に向き直って言った。

「いったいこれはどういうことなんです」「納得の行く説明をしてもらいますよ?」「理屈に合わないことばかりなんだ」「なにがどうなってるのか、きちんと説明してください」

紫蘭は答えに窮したが、キャメリアがまた部屋に入ってきてファルスに耳打ちした。顔色の変わるファルス。

「答えを考えておいてください。僕はキャメリアと一緒に出かけてきますから」「いったいいきなりどうしたんだいお前」「死体が見つかったんですよ、国道沿いで。その死体が、どうもクランの制服を着ているらしい」

「察するに、そのアネモネって子じゃないですかね?」鋭い視線を紫蘭に投げかけるファルス。小刻みに震えている居心地の悪そうな紫蘭

「あんたたちがサナトリウムのドクターか?」州警察の警官がファルスたちを出迎える「あそこにはドクターはいないって聞いていたが、呼ぶと出てくるんだな」皮肉を言う警官。警官はキャメリアに見覚えがあり、乱射事件のときに犯人を撃った子供だという。子供扱いされることを不愉快に思うキャメリア。ファルスは、鑑識に医者の身分を明かして遺体を検分させてもらうことにする。

「君、外科だろ、どう思う?」血溜まりに横たわるアネモネの死体。「どうって言ったって、僕は君と違って専門の学校で学んだわけじゃないんだ」困惑するキャメリアだが、傷口を一瞥して「これも、ナイフだな。たぶん」と言う。「どうしてわかる?」「傷口の創傷の具合がマリーゴールドのに似てる。おそらく、ここをナイフでブスリ」「そのマリーゴールドなんだがね」と警官。「やっこさん、今どこにいる?」

「クランにいるよ?」「会いたいんだが」「今、手術直後で面会謝絶だ」「手術?怪我か?」「ナイフで刺された」「喧嘩か?」「一緒にいたクラン生はこの子に刺されたと言ってる」「それはおかしいな」「どうして?」

「この女性が刺されるのを見ていた目撃者が何人もいるんだが、みんな同じことを言うんだ」「被害者は刺される前に犯人を見て、マリーゴールド!って叫んだってな」「それで写真で面通ししたところ、服や髪の色は違うが間違いなくこの女だったて言ってる」「お宅のマリーゴールドがこの事件の重要参考人ということだ」

顔を見合わせるファルスとキャメリア。目撃者がいるということは犯行時刻はわかってるわけですよねとファルス。昨日の深夜だという警官。

「その時間なら、マリーゴールドは手術の真っ最中ですよ」「彼が執刀医です、間違いありません」口をそろえる二人。警官は首をひねってしかし目撃者は間違いなくこの女だったと言ってるんだと言う。

「服と髪の色が違うというのは?」「銀髪で全身白づくめ」「マリーゴールドは白い服なんか持ってませんよ。彼女はいつも全身真っ黒だ」「おたくの制服は真っ白だろう?」「そんな服着てたら返り血を浴びて大変でしょう。わざわざ刺すために着替えるような服ですか」「しかし、犯人は血染めの服を着て、ゆうゆうと立ち去ったと目撃者が」「じゃあ、マリーゴールドが二人いるってことかい?」「そんなバカな」

何れにせよ犯行時刻にマリーゴールドのアリバイがあることは間違いないと言うファルス。話を聞くにしても回復してからだという。おたくのサナトリウムは死人が多すぎる。必ず捜査するからなと警官。

帰りの車内で「あの警官が言ってたことはどういう意味なんだ」と聞くファルス。君が寝てる間にオダマキが銃を乱射したり、ローズが繭期でおかしくなったり、ピーアニーは殺されて見つかるし、とにかく色々あったんだよと答えるキャメリア。そりゃあ大変だったなぁとファルス。他人事みたいに言うな!君にだって責任の一端はあるんだぞというキャメリア。

責任って言ったってなぁ。。。だいたい、僕は帰らなきゃならいんだよ、ニューヨークで妻と子どもたちが待ってるわけだし。リリーと子どもたちの顔を思い出すファルス。「ソフィ」リリーの声。



「ソフィ。。。ソーフィ」「ソーフィ。。。」ゆっくりと時間が引き伸ばされたような声。遠くから、遠くからソフィを呼ぶ声が聞こえる。



「ソフィ!」ソフィは我に返った。
ソフィはセントラルパークにいた。ビリー星野はいなくなっていた。リリーと子どもたちが不安げに見つめている。紫蘭が「どうしたんだい?お前、まるでここにいないようだったよ?」と声をかける。

「クランに」「クランにいたような気がする」「クランで僕は、女の子の手術をして、遺体の検分をやっていた」「変だな、さっきまでたしかにクランにいたはずなのに」「母さんも、いたでしょう?」

紫蘭は「あたしはニューヨークに越してきてから一度もクランに戻っていないよ」といった。リリーも頷く。ソフィは、気分がすぐれないと言って一人で家に向かった。その姿を不安げに見つめている紫蘭とリリー。



クラン。

病室のマリーゴールド。眠りについたままのマリーゴールドの側につきそうカトレアと紫蘭。カトレアはなにがなんだかさっぱりわからないという。

「どうしてファルスが手術したことを言ってはいけないの?」「どうしてファルスはマリーゴールドを見てリリーって言ったの?」「どうしてアネモネは殺されなきゃならなかったの?」「守らなければならないクランの秘密っていったいなに?」「わたし、もうわからないことだらけでどうしたらいいのかわかんない」

紫蘭はカトレアに絶対に見たこと聞いたことを喋るんじゃないよと念を押し、もしマリーゴールドに少しでも話したら、お前もマリーゴールドも永久にクランから出られなくなる、だから、絶対に話すんじゃないよ!と言った。何も知らないマリーゴールドは安らかに眠っている。表で叫び声が聞こえた。

「ファルス!ファルス!しっかりしてくれファルス!」キャメリアがファルスの肩を揺すって必死に目を覚まさせようとしている。ファルスは繭期の発作を起こしたように、青白い顔色にになり浅い呼吸を繰り返している。スノウが泣きながら心臓マッサージをはじめた。どうしたんだい!紫蘭がキャメリアに聞く。

「わからない!」「話をしていたらいきなり発作が始まって」「こいつ、意識が無くなりそうになりながら必死にここまで車を運転して」「キャメリア、また君に会えて嬉しかったって言いやがった」「こんなこったろうと思ったよ」「こんなこったろうと思ったよ!」

紫蘭はキャメリアの胸ぐらをつかむと「この子が言い残したことはそれだけかい?本当にそれだけなのかい?よく思い出すんだ。本当に言い残したことはそれだけなのかい?」と乱暴に問いかける。

「お館様に僕は会った」「は?」「お館様なんかいなかった。キャメリア、お館様なんかいないんだって」「どういう意味だい」「わからない、こいつ必死に、なんでかお館様の何かを伝えようとして、でも、だめなんだ、途中で意識がなくなって、なにを言いたかったのかわからないんだ!」

(お館様なんかいない?)紫蘭はスノウが必死に心臓マッサージしている姿を見ながらじっと考えていた。

「スノウ、君にも伝言がある」「こいつの最後の言葉だ。聞いてやってくれないか」

「彼はまだ死んでないわ!」スノウはキャメリアの言葉を拒むがキャメリアは言った。

「僕も愛してる」「リリー、君のことを愛してる」スノウの手が凍ったように止まった。キャメリアはその表情を見て確信したように。

「君、いったい、誰なんだ!」


リコリスの花園。

「クランに新しい絶望の芽が生まれた」リコリスが花に水をやりながらつぶやく。その向こう側に立つシルベチカ。傍らのリリー。「愛しい絶望の花よ」「やがてこのクランに咲き誇れ」「クランに関わったものたち全てに呪いと絶望のあらんことを」「そして、偽TRUMP者、ソフィ・アンダーソンに死を!」リコリスはそう繰り返した。


ソフィのマンション。

居間で子供とリリーがくつろいでいる。その姿を優しく見つめている紫蘭。電話が鳴る。ソフィが受話器を上げた。その向こうでビリーの声がする。

「よう、先生、いいこと教えてやるよ」「あんたの家族な」「家族じゃないぜ?」

受話器の降ろされる音。ソフィは呆然と、妻と、母親と、子どもたちを見る。



えらく長いですが本当は複数の話数に分けるべきエピソードを一気にやっているからです。グランギニョルが上演されることになりそれを待って方向を決めようと思っていざ観てみたら、設定的に伏せてあることを先に全部やられてしまうという大惨事になったわけで、そのまま書いたら「パクリ」としか言われないのは目に見えるわけで、それをいかにうまく使わずに書くかで何度も書き直したわけで、物凄い枚数のボツ稿がございます。ファルスが起きて手術をするという基本プロットですが、ニューヨークのソフィがクランにやってくるというボツ稿もありました。とにかく時間がかかった。もう一人のマリーゴールド(ビリーの足を引っ掛けたのと同じ女)の白いイメージはグランギニョルから。

工藤遥卒業祝いということで、寝たきりという設定で殆ど出てこなかったファルス/ソフィが久しぶりにメインの人物として行動、久しぶりにキャメリアも出てくるという豪華編。ゲストとして影の薄いアネモネ花言葉は「無実の犠牲」「見捨てられた」「薄れゆく希望」 キャストは小数賀芙由香さんを想定。