Talkin’ about !!!!!!!!!!!!!

行く先不明のパソコンblog

ep.10 いつか陽の差すところに

一話飛ばして。


(あらすじ)

ファルスの病状は急速に悪化し、ベッドから起き上がれない状態になってしまう。ウルの供給が絶望的となり、紫蘭は中央の病院でファルスの病気が治る可能性に賭けるという。ファルスは拒否するが昏倒してしまい、気がつくとリリーとともに中央の病院に向かう馬車の中にいた。先生の待つ中央の病院での生活が始まる。2人は病院の中のクランの生徒となるが程なくしてファルスは危篤に陥る。その報告をうけたクラン内に絶望が満ちる。一年が経過し、ウルの備蓄が尽きる。寮生がゆっくりと、だが確実に死に始める。なすすべもなく立ち尽くすスノウと紫蘭。2人にも老化が忍び寄り、スノウはゆっくりと、紫蘭は急速に老けこんでいく。ウル切れの効果に個人差があることに気づいた2人は、可能な限りの寮生を外部のサナトリウムに移す「エクゾダス」計画を実行する。キャメリアとシルベチカもクランを去る。手の施しようのない寮生たちとともにクランに残ったスノウたちだが、なんとか生き残ることに成功する。


一方、危篤状態を脱したファルスはリリーからクランの仲間たちが全滅したことを知らされ悲嘆にくれる。ファルスは、改めて繭期の子どもたちを救うために人生の最後を費やしたいと考え、医学の道に進む。病に倒れた先生はリリーの妊娠をファルスに告げ結婚を勧める。結婚式の日、クランから紫蘭がやってくる。妙齢の夫人の姿になった紫蘭を見て驚くファルスたち。結婚式の成り行きで紫蘭はファルスの母親ということになり、病院の仲間たちから歓迎される。紫蘭とスノウは2人でサナトリウムを経営し、新しい繭期の少年少女達を迎え入れてクランを再建しているという。紫蘭は、スノウは中央に出ていったファルスたちを恨んでいると言った。ファルスとリリーは自分たちの幸福のためにクランの仲間たちを見殺しにしたと彼女は考えていると。その言葉にショックを受けるファルス。


ファルスの病は小康状態になり、医師として働き始める。子供が2人生まれ、キャメリアとシルベチカと名付けられた。短いが幸せな日々が続く。ある日、紫蘭が現れ、しばらく一緒に過ごしたいという。歓迎するファルスとリリー。孫達に囲まれて幸せそうな紫蘭。ファルスは紫蘭の老け込み方に違和感を覚え、彼女に健康診断を受けるように勧める。その結果、紫蘭は自分と同じ不治の病にかかっていることを知る。ウルの長期投与のため、ファルスと同化した紫蘭の肉体だが、その結果、病気も受け継いだのだ。ウルの効果でそのペナルティが表面化しなかったが、ウルの投与を中止した結果発症したと考えるファルス。ファルスは紫蘭をディナーに誘い、そのことを告げた。だが、紫蘭は笑って、これは寿命だよという。生き物にはみな寿命があり、自分にもそれが来たという紫蘭。永遠の命は幻だったと。紫蘭はファルスの誘いを断ってクランに戻り、翌年の冬に息を引き取った。病床でそのことを知るファルス。


秋。ファルスは家族を連れてクランに戻った。紫蘭の墓の前でもはや自分の病状は末期であり治療も打ち切られたと語るファルス。死んだら母さんの隣で眠りたいけどいいかな?と。スノウは、紫蘭の部屋にファルスを案内し、写真館で撮ったリリーたちとの写真が飾られたスタンドを見せる。来客や生徒たちに自慢の息子とその家族といつも幸せそうに話していた、と。しょせんは家族ごっこだと思っていたけど、少しは彼女の役に立ったのかなとファルス。スノウは最近見つけたと言ってファルスを地下室に案内する。そこで古ぼけた一冊のノートを示すスノウ。それはクランの学籍簿であり作成者はソフィ・アンダーソンと記されていた。だが、ファルスには覚えがない。スノウはこのノートにはおかしな点があり、自分はすぐその事に気づいたという。ファルスは何度もそのノートを確認し、衝撃的な事実に気づく。そのノートにはスノウの名前が記されていなかった。自分すら載っているというのに!さらに、リリーの入寮の日付が800年前のものであり、名前の横に死亡を意味する印が付けられていないことも分かった。どうやらこのクランは私たちが考えていたような場所ではなかったのかもしれないわとスノウ。だが、すべての寮生が亡くなった今となってはそんなことはどうでもいい、少なくとも自分にとってはと答えるファルス。このことをリリーには絶対に教えないでくれというファルス。


そして、ついにファルスは最後の危篤に陥った。医師はリリーに家族の方を呼んでくださいという。もはや為す術がなく、病室に中央で出来た友人、同僚の医師、そして、今は別の街で暮らしているキャメリア夫妻が娘のリリーを連れて駆けつけた。そこにやってくるスノウ。スノウの来訪を知ったファルスはふたりきりの時間を作ってくれとリリーに頼む。この10年、家族を得て夢の様な幸せな時間だったと語るファルス。君たちにはすまないことをした、命を救ってやれなかった、そのことだけが心残りだと。ファルスは自分が死んだらクランに埋めて欲しいと頼み、あのノートのことはキャメリアに相談するようにと告げた。くれぐれもリリーには内密に、と。スノウは、重要な提案があると言った。自分のイニシアチブはファルスと同じヒエラルキーにあり、ファルスに一分間だけ永遠を与えることができると。記憶操作によって、死ぬという事実を忘れさせ、本当の命が途切れるまで平穏に生きて終わることができると。クランで寮生たちが死んでいった時、みんなそうやって安らかに死んでいった、もし望むならあなたも家族に囲まれながら年老いて死んでいく幻想の中で最後を迎えることができるわ、と。ファルスはその申し出を断り、最後の最後までなぜこうなったのか、どうすればみんなを死なせずに済んだか考えながら死んでいきたいという。スノウは涙を流して「あなたはもうこの苦痛から解放されていいのよ!」「さあ、望みなさい!」


クラン。ファルスの葬儀のあと。喪服姿のキャメリアとスノウ。君はずいぶん老けたねとキャメリア。他人の倍くらいの早さで老化が進んでいくというスノウ。それでもまだ40そこそこよというスノウ。君は結婚しないのかい?とキャメリア。あっという間に死んでしまうのに結婚はねとスノウ。スノウはキャメリアにノートを見せ、生前ファルスが語っていたことを伝える。ソフィ・アンダーソンの伝説。なるほど、ファルスの言うことが本当だとすれば、このクランの何処かに、TRUMPことソフィ・アンダーソンが隠れているのかもしれないね、とキャメリア。


そこで、ファルスは目を覚ました。見慣れた天井。どうやらまだ生きているらしい。もしかして、なにもかも夢だったのか。病気も、中央での生活も。だが、ベッドサイドにリリーがいた。疲れきった、悲しげな表情のまま、眠っていた。最初に出会った頃から10も老けこんでしまったような気がする。病室だった。世の中そんなに上手くはいかないか、そう思った。リリーの傍らに目をやる。キャミーとベチカの姿は見えない。リリーに触れたい。ファルスは手を伸ばした。自分のものではなくなってしまったような、重たい手。リリーが目を覚ました。「ファルス。。。?」「いつも、ありがとう」ファルスは優しく微笑んだ「子どもたちは、もう寝た?」「子どもたち?」「キャミーとベチカ」「なに言ってるの」「僕はまだ、死なないよ」リリーは会話の途中で泣き出してしまい部屋を出て行ってしまう。代わりに険しい表情のキャメリアが現れた。会いたいのはこちらのキャメリアではないと思ったが、しかし、クランを出てから、10年ぶりだろうか。そういえば、結婚式にも出てくれなかった。こいつと喧嘩してたっけかな?「君が呼ばれてるって言うことは、僕はもうヤバイっていうことか」「なんの話だよ。それより、君リリーになんて言った?」「え?」「リリーになんて言ったんだよ!」「子どもたちは、もう寝たかいって」「子どもたち?」「そうか、まだ紹介してなかったか。キャミーとベチカ。キャミーの方は君の名前をもらったんだ。まだ5歳なんだぜ。かわいい盛りなんだよ。あとで会ってやってくれ」「誰と会うって?」遠くで誰かが声を上げて泣いているのが聞こえる「リリーか?」「そうさ。君は今、自分がどんな状態なのかわかってるのか」「わかってる」「。。。」「なあ、僕はあとどのくらい生きられる?」「。。。」「正直に言ってくれ。今日明日か?」「リリーにもそんなこと言ったのか」「リリーには今までありがとうって。一緒になってくれてありがとうって」「君たちまだ一緒になってないだろ!」キャメリアは怒鳴りつけた「そうか、君には連絡してなかったかな」「クランを出て、中央の病院に行って、5年くらいでプロポーズしたんだ。それで、結婚式には紫蘭が来て、それで、君たちは来てくれなかった」「呼ばれていないからな」「シルベチカは元気かい?」「おかげさまでね」「シルベチカを幸せにしてあげろよ」「君に言われなくたってそうするつもりさ」「君たちの結婚式にも行きたかったんだが、この身体でね。でも、最後にまた会えてよかったよ」キャメリアは立ち上がって「君はさっきから何をわけのわからないことを言ってるんだ!」「僕は、クランの仲間を見殺しにした。それは本当にすまないと思ってる。そのことで、怒ってるんだろ?」「僕が言ってるのはリリーのことだ!」「リリーと子どもたちを残して逝きたくない。でも、あとすこししか生きられないんだ。せめて、クランにいた頃に戻れたらなぁ」ファルスはこみ上げてくるものを感じて顔を両手で覆った「君は、一年も眠ってたんだぞ」「そんなにか」「ああ、そうさ」「そうか、その間、夢を見ていたんだな」「なんの夢だ」「僕が、死んだ夢さ」「死んで、どうした」「聞きたいか」「興味あるね」「僕は、クランに埋めてもらうんだ。紫蘭母さんの隣さ」「僕にはもう故郷がないから、戻るならクランだと思った。クランなら仲間が沢山眠っている」「沢山?」「そこで君は、スノウが見つけた学籍簿を見るんだ。きっと、驚くぞ」「なぜ?」「それは、僕が死んだあとのお楽しみだ。ただ、お願いがあるんだ」「お願い?」「リリーには、何も言わないでくれ」「リリーが、悲しむような中身なのか」「ああ。リリーには教えられない」「夢の話だろ」「いや、実物はもう見てるんだ。学籍簿はスノウが見つけた。家族で去年の秋クランに帰ったんだよ。その時に教えてもらった。色々クランについてわかることがあったが、いまさらわかったところで仕方ない。僕は読まなかったことにしたよ」「スノウが知っているんだな?」「じきにクランから彼女も来る。その時にでも聞いてくれ。でもね、どうでもいい内容なのさ。誰が作ったかわからない学籍簿より、僕はリリーと子どもたちの方が大事さ。だから、どうでもいいことにした」キャメリアは深い溜息をついた「もういいよ。とりあえず、もう寝ろ。まさかまた、一年寢るってこともないんだろ」「キャメリア、雨が降っているのか?」「降ってるよ」「クランでは毎日雨ばかりだったな」静かに雨音が聞こえる「こうして目をつぶって雨の音を聞いていると、僕は今でもクランにいるような気がするよ。あの頃に戻りたいな」やがて、ファルスは静かに眠りについた。


キャメリアは病室を出た。クランの長い廊下。シルベチカが優しくリリーを抱きしめている「彼は眠ったよ」「まだ少し、意識がはっきりしていないようだ」「でも会話はしっかりできるから、きっとだいじょうぶだ」「リリー、一年間、お疲れ様」リリーは震えながら「でも、ファルス、おかしな事言ってる。私たちの子供とか、ありがとうとか、そろそろお別れだねとか、私たちまだ何もはじめてないよ!」「これからはじめればいい。まだ時間はあるさ。だいじょうぶだよ。僕たちが、死なせやしない。だから、もうおやすみ」


「そうさ。だいじょうぶだ」キャメリアは自分に言い聞かせるように、言った。