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行く先不明のlinux blog

ばくわら 番外編 リリウム そのきゅう

・しばらくの時が立ち、リホは穏やかさを取り戻した。だが、体力は目に見えて衰えてしまった。チェリーの押す車いすでクランの中を移動し、時に長い間床に臥せった。もうどのくらい経ったのかもわからなくなった。

・死んだら魂はどこに行くんだろう。リホはそんなことを考えるようになった。チェリーは、親友との別れが近づいていることを感じていた。

・ファルスはお館様への使いで時折「外の世界」へ出て行くようになった。リホはその度に重い患いを得て床に臥せった。リホは寂しさに耐えられなくなっていた。それでもクランには穏やかな時間が流れていく。

・リホのリボンに監督生のバッジが着けられる。友人たちが拍手をしてくれた。リホはいつの間にか上級生になっていた。優等生で穏やかで面倒見のいいリホは満場一致で新しい監督生に選ばれた。

・繭期が終わりに差し掛かっていることをリホ自身も感じていた。クランを出たらファルスの話してくれる外の世界を見てみたいというリホ。チェリーは顔を洗ってくると言って車いすから離れ、そして泣き崩れた。

・たぶん、繭期の終りを迎えることもなくリホは死ぬ。チェリーはファルスが「外の世界」に行くのはリホを助けたい一心からだということも知っていた。

・青い空が見たい、と、リホは言った。ねえ知ってる?雨の降らない世界では空は透き通るように青いんだよ。。。最後に、青い空が見たいなぁ、とリホは言った。間近に、死が迫っていた。

・私は裏切り者になります。チェリーは言った。今までたくさんの仲間を売って生きてきたけど、リリーをこのまま死なせることはできそうにありません。私は臆病で卑怯者でした。でも、親友を見殺しにできるほど心が強くないことを知りました。だから、私は裏切り者になります。リリーを死なせることはできません。

・リホは目を疑った。新しくクランにやって来た繭期の少女の中に見覚えのある顔があった。

・田村だった。間違いなく田村だった。少女はマリーゴールドと名乗った。

・リホは、自分の頭の中がまたジリジリし始めるのを感じた。薬を飲む。だが、それでも声をかけたい衝動を抑えられない。

・「めいめい」「は?」「めいめいだよね?」「どちら様ですか?」「生きていたんだね?」「。。。」「生きていたんでしょ?!」「誰か。。。この人おかしい」「どうしてそんな風に言うの!?」

・騒ぎを聞きつけて竜胆が駆けつけて来た。「この人、おかしいですよ、なんなんですか?」

・「どうして知らないふりするの?」「あの時、助けてあげなかったから?」「それとも、私を罰するため?」「私、ずっと謝りたいと思っていたんだよ」「めいめいに謝りたいと思っていたのに」「なぜ知らないふりをするの!?」「めいめいなんでしょ!?」

・思わずマリーゴールドの腕を掴んでしまうリホ。マリーゴールドの恐怖に怯えた顔。

・「離して。。。」「めいめい。。。どうして私を忘れてしまったの?」

マリーゴールドは悲鳴を上げた。無理やりリホを引き剥がす竜胆たち。リホは興奮して「めいめいなんだ。あれはめいめいなのに!」と叫び続ける。竜胆が泣きじゃくる少女の肩を抱いて遠ざかっていく。

・行かないで!私をひとりぼっちにしないで!私を置いて行かないで!

・興奮の絶頂を迎えたリホは、そのまま意識を失った。遠くからアヤカが見つめていた。

・病室。意識を失ったまま横たわるリホ。その傍らにチェリーが座っている。背後に旅姿のファルスが立っていた。

・「君、僕に断りもなく大胆なことをやってくれたな…」「こんなことあの機関が黙っているわけがない!」

・「怖くなんかないわ」「それよりも、わたしをどうする気?」「どうもしやしないさ」「嘘だ」「嘘ってどういうことだよ!」「あんたは嘘をついてるわ」

・ファルスは押し黙ってしまう。チェリーはやさしくリホの髪を撫でる。リホが目を覚ました。

・「ふたり、いたんだ。。。」「みんないなくなってしまった夢を見た」「とても悲しい夢だった」「わたしをもう一人ぼっちにしないでね」

・リホは再び重い眠りにつく。もう明日の目覚めの保証もないほど重い眠りに。

・「彼女がいなくなったら僕はまた一人ぼっちだ」「自業自得よ」「僕は、彼女に永遠の命を与えたい」「あんたは、狂ってるわ」「悪いかい?」

・「僕は狂ってる」「そんなこと知ってる」「狂ったからどうだ?」「狂って彼女が救えるなら、僕はいくらでも狂ってみせるさ!」「狂ったがどうした!」「お前なんか、協力する気がないなら、とっと失せろ!」「どこへでも好きなとこ行っちまえ!」「ウルくらいいくらでもくれてやるよ!」「どこか地の果てで、一生そうやって他人の批判だけしながら、野垂れ死にも出来ず」「未来永劫の孤独に怯えていろ!」

・研究室。

・「僕が狂ってる?狂ったがどうした!狂って悪いか!お前が邪魔なら僕はお前なんかいくらでも殺す!竜胆が邪魔なら竜胆も殺す!紫蘭が邪魔なら紫蘭だって殺す!それで彼女が救えるなら、何人でも殺してやるさ!僕の命を彼女にくれてやることができるなら、僕の命だって惜しくない!僕が死ねばいいのか?僕が死ねば解決するのか?答えろよ、チェリー!」

・「出来もしないことを言うな」「あんたなんか死ぬことも出来ないくせに」「出来もしないことを言うな」

・「僕はもういい加減生きるのに飽きた。僕はもう3000年生きてきた。彼女が救えるなら、こんな命はもういらない。頼む、彼女を助けてくれ」「お願いだ、リリーを助けて。。。」

・ファルスはチェリーの足元にすがりつき、ただ救いを乞うた。

・「少し長く生き過ぎた。そうだあたしたちはすこしばかり長く生き過ぎたんだわ。TRUMPでもないのに。私たちに永遠の繭期は手に余るものだった」

・容態の安定したリホは再び監督生の仕事に戻った。周囲は反対したが本人がそれを望んだ。誰もがわかっていた。たぶん次はない。リホはマリーゴールドには近づかないと約束し、再び穏やかな日が続いていく。

・そんなリホにアヤカが声をかけてきた。めったに他人と話さないアヤカが、積極的に声をかけてくるのはとても珍しいことだった。チェリーはためらったが、リホが二人きりで話したいと望んだから、その願いは叶えてやることにした。たとえどんな些細な事でも、リホの願いは叶えてやりたいと、チェリーは考えていた。あと僅かで、リホは何も願わなくなるのだから。

・「お話ってなんですか?」リホは、そう言えばここに来た最初の日にこの人に声をかけられたことを思い出す。あの時は驚いた。ユウカと自分を間違えていた。

・アヤカは静かに言った「マリーゴールドが戻ってきたのね」「マリーゴールドが戻ってきたんでしょ?」

・リホは「いえあの子は、別人です」「よく似ていますけど、別人です」「わたしのことは知らないそうです」と答えた。「マリーゴールドは、私のよく知っているマリーゴールドはもういなくなりました」

・でもあの子はマリーゴールドよ。思い出して、あの子はマリーゴールドよ?

・今でも忘れない。めいめいとの思い出。最後に生きているめいめいを見たのは、雨の降る中庭だった。あの日、きちんと声を掛けてやれていたら。。。涙がこぼれ落ちていた。

・「何故泣いているの?」

・「ごめんなさい私、マリーゴールドのことを思い出すと、泣いてしまうんです。ごめんなさい」

・「泣く必要はないわ。だって彼女はあそこにいるのだから。手を伸ばせば届くのに。あなたが手を伸ばしていないだけ。マリーゴールドはあなたのそばに戻ってきたのよ?」

・「死んだ人は天上の星と一緒です。ここは星が見えないけど、雲の上にはいつも星が輝いている。目に見えないだけでそれはいつもそこにある。私たちの頭上にそれはいつもある。私たちと共にある」

・「雨がやんで星が輝いて、私は星に手を伸ばします。それは掴めそうで、でも永久に掴むことは出来ないんです。私たちがそこに行けるのはただ一度きり。私は、もうすぐそこに行きます」

・「死ぬことが怖くないの?」「怖いです」「愛する人と永久に会うこともできなくなるのよ」「だから、怖いです」「もうすぐ、私たちもお別れなのね」「たぶん、そうなります」

・「以前、あなたに声を掛けた時にあなたは私と話してくれなかった。なぜ、話してくれる気になったのかしら」「私のことを、ひとりでも多くの人に覚えておいてほしいと思ったから」「覚える?」

・リホは穏やかな表情で言った「忘れられなければ、その人の心の中で、私は生きているのと同じです。忘れ去られさえしなければ、私ははたくさんの人の心の中で生き続けることができるんです」「もうすぐ私はいなくなります」「残念だけど、間違いなくいなくなります」「私、マリーゴールドのことを私がずっと覚えていたように、私のことも覚えていてもらえたらと思います」「だから、アヤカさんとお話したいなと、今日のことを覚えていてもらえたらなって思ったんです」「お願いします、私を、忘れないでいてください」「お願いします」

・アヤカは静かに言った「死ぬのが、怖いのね?」「はい。怖いです」

・できれば生きていたい。。。リホの頬を涙が伝った。私、死にたくない。いつまでもここにいたい。ファルスと一緒に生きたい。繭期が終わって、二人で約束の「外の世界」に行きたい。青い空がもう一度見たい。空の星が見たい。死にたくない。私、まだ死にたくない。。。

・あとは言葉にならなかった。

・勝手なこと言うのね。アヤカは言った。ユウカちゃん。あなたは私のことを忘れてしまったのに。私に忘れないでいて欲しいの?それは勝手だわ。。。

・思い出しなさい。あなたは本当は誰なのか。思い出しなさい。誰がほんとうに死んだのか、思い出しなさい。マリーゴールドを最後に見たのは本当は何時なのか、思い出しなさい。思い出しなさい。

・そう言うと、アヤカは去っていった。チェリーがリホのそばに戻る。何を話したの?

・「不思議なことを言われた」「私がまだなにか忘れているって」「あの新入生はマリーゴールドだって」

・チェリーは戸惑って。本当に戸惑って。

・チェリーは不安になりアヤカのことをファルスに話した。ファルスは「言わせておけばいい」「彼女は過去に生きている」「今の僕らには不要な女性なんだ」

・リホはふたたび学籍簿に目を通した。マリーゴールド、自殺。ユウカ、転院。リリー、転入。

・「待って。。。マリーゴールドの自殺は私がこのクランに来るずっと前の出来事」「アヤカの友達のユウカがいなくなったのは同時期」「私の転入以後に自殺した子はいない」「私が見たあの光景は何時の出来事のことなんだろう」「たしかに私がユウカなら辻褄は合うけど」「わたし、アヤカなんて知らない。紫蘭も知らない。竜胆も知らない」「どうして私に、いたはずのない時期の事件の記憶があるの?」「記憶操作。。。」

・「お願いだよファルス」「これ以上私を苦しめないで」「もうお別れの時なのに」「あなたのこと信じたまま終りを迎えさせてよ。。。」「お願いだから。。。」

・「ファルス、わたしはユウカなの?」「なんだい唐突に」「私の記憶を消したの?」「消してないよ」

・夜。べッドの傍らのファルス。床に就いているリホ。

・「アヤカが言ってた」「私はユウカ」「でも忘れているって」

・「アヤカはだれにでもそう言うんだ」「それに、ユウカはアヤカと同い年」「リリーより4つ上だよ」「君がユウカのわけないだろ」

・「不安だよ」「私、今、たまらなく不安だよ」「なにも知らないまま死んでいくんじゃないかって」「怖くて怖くてたまらない」「どんなかけらでもいい」「私が忘れている記憶の中にファルスがいたら、わたし思い出さないまま死ぬのは嫌だよ」「お願い、全部思い出させて」「ファルスのこと、一欠片の破片も忘れていたくない」「わたし、このままじゃ死ねないよ。。。」

・雨の中庭。ずぶ濡れになったファルス。

・「死なせやしないさ」「僕が絶対に君のことは死なせやしない」「一度は成功したんだ」「君は絶対に僕が助けてみせる」「さもなくば何のための3000年だ!」

・研究室。白衣のファルスとチェリー。

・「永遠の命だ」「永遠の命をリリーに与える」「ただちに調合にとりかかる」

・「永遠の命の制作はあの実験の失敗以来禁止されています」「承知の上でだ」

・「私たちはどうなりますか」「たぶん、未来はない」「私たちの未来を、リリーに与える?」

・「君もしそんなことができたら」「大成功さ!」

・サキの墓標の前。アヤカと紫蘭

・「そうなんだ」「永遠の命を」「許せない」「約束と違う」「私をこんな体にしておいて」「リリーに永遠の命を与える」「許せない」「絶対に許せない」

・「紫蘭ちゃんお願いがあるの」「リリーを殺して」

・監督生室

・「ワレは守護者なり」つぶやく紫蘭。「なにそれいったい」不審がる竜胆。

・「お互いに長い付き合いだったが」「まもなくお別れかもしれない」


殺意を隠そうとしなくなるアヤカ。破局へ向かう次回に続く。