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行く先不明のパソコンblog

Andrew Hillのこと

キャリアの途中から指が凍ってしまったかのように動かなくなってしまったのはなぜなんだろうとずっと考えていた。

「エルモ・ホープ同様、作曲家系ミュージシャンにありがちな考えながら弾いて行くたどたどしさ」と彼のピアノを評する文章を見た事があるがとんでもない!それは初期作品の複雑な即興フレーズを猛烈な勢いで早弾きする彼を聴いたことのないものの戯言だ。

だが、その彼が途中からまるで何かに取り憑かれたかのように指を動かさなくなってしまう。まるで我々には聴こえない音を必死に聴きながらそれに呼応した演奏を行っているかのような不可思議さ。

彼のBN後期作品はだからと言うわけではないのだろうけど大編成作品が多い。その試みによって彼の聞いている「聞こえない音」が譜面化され演奏されることで我々にも聴こえるところとなった。

その後期作品でもとりわけ最終録音曲「Mahogany」が興味深い。弦楽カルテットと1管編成のクインテットによる演奏だが、曲の途中でリズムセクションが倍テンポをとりテナーがこれに乗ってブリブリ吹きだすところがあるのだけど、ピアノだけが尾いてこない。ピアノのソロパートになってもテンポはそのままで進む。そこでよく聞くとおかしなことに気づく。どうも、ピアノのテンポがおかしい。テーマを繰り返し弾いているのだけど、元のテンポよりも大分ゆっくり弾いている。と、いう譜割が異常に大きいように聴こえる。てか、このおっさん、よりによってハーフテンポで弾いている!

そりゃ「弾いてない」ように聴こえるわけだよ!普通こんな演奏はありえない!

問題は「なんで?」と言うことなんだ。Hillは去年亡くなってしまった。生前インタビューに答えた彼は「リハーサルもろくにやらなかったし、今まで一度も一緒にやったこともないドラマーと組まされたりしたから意思の疎通も欠いてまともな演奏はできなかった」とこの頃の演奏の「謎」に答えているんだけど、そういう問題とはとても思えない。

思うに、この頃のHillの演奏テーマは「時間軸の自在なコントロール」だったんじゃないかなぁ。まるで音のスローモーションでも見ているかのように音符を引き伸ばして行く奇妙な演奏を聴くたびにそう思う。