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行く先不明のパソコンblog

ばくわら 番外編 リリウム そのなな(改訂稿)

「嗚呼 すすきの」のおかげで、繭期がどこかにすっ飛んでしまいましたが、続きます。どうせネタつぶし。

・翌朝。まだ生徒たちが寝静まっている間に門が開く。マント姿のリホとファルス。

紫蘭はこちらからは迎えも出さないし探しにも行かないという。帰ってこなければどこか他のヴァンプたちの居住地に移ったと考えるだけだという。

・あたたたち純潔を守らねばならない事はわかってるのでしょうねと竜胆紫蘭。旅の途中で、ふしだらな行いをしたのであれば、もし戻ってきたとしても追放するという。ここは繭期のヴァンプのためのサナトリウム。繭期の終わったものたちに居場所はないのです、と。

・必ず帰ってきますと答えるリホに、チェリーが頑張ってと声を掛け、何か箱のようなものを握らせる。

・お守りよ。必ず道中役に立つから、と。あとでこっそり見て、と。

・リホはマントのポケットにそれをしまうと雨のふる森の中に旅立っていく。

・その背後で音を立てて門が閉まった。

・出かけてはみたものの、雨の降る暗い森の中では方角すらわからず、リホたちはただ徒に歩き続けていた。せめてクランに戻れるようにと目印の木の枝を折るファルス。

・小休止中に装備の点検を始めるリホ。弾倉に小銃弾を装填し再び銃に戻すリホ。ファルスは、そろそろ本当の君のことが知りたいなという。言っても理解してもらえないよと答えるリホ。

・リホはファルスに気付かれないように通信機のスイッチを入れる。だが、やはり電波がどこかに吸い込まれていくかのような状態が続いており、森を抜けない限り連絡は取れそうになかった。

・ファルスが森の切れ目を見つけて見に行ってくるとリホから離れた隙に、チェリーから渡されたお守りを確かめてみるリホ。

・それはキャラメルの箱大の大きさのセロハン包装された箱。一目瞭然、オカモトの「ゴム」だった。超薄型一ダース入り。

・リホは笑顔で自分を鼓舞していたチェリーを思い出し、我が親友とはいえ、さすが最高に空気の読めない奴だと思った。

・ファルスが戻って来たが、リホは正面から顔を見ることが出来ない。ギクシャクした足取りで先に立って歩き出すリホに首を傾げるファルス。

・「なに怒ってんだよ」「怒ってなんかない。先を急いでるだけ」「怒ってるじゃん、なんか」「(理由なんて言えるかこのバカ!)」

・夜。偶然見つけた小屋で雨を凌ぐ二人。湿った薪にむせるリホ。火を見つめるファルスは「ここに送られてくる前に僕がいたクランは、教師の起こした火事で、焼け落ちたんだ」と問わず語りで呟く。「それから、僕は一人ぼっちだった。長い長い間」そのきれいな横顔を見つめるリホ。

・「ねぇ、君のことを話してよ。人間の里で育ったんだろ?どうして、クランに送られてきたの?」

・リホは、慎重に言葉を選びながら、自分は人間として生まれたこと、今でも自分は人間だと思っていること、でも幼いころ廣島にある「施設」に送られて、人間ではない存在として育てられたこと、仲間たちと出会うまで孤独だったことを話した。詳しいことは話せないんだ、と、断りながら。

・「私たちは、超人と呼ばれている」リホは言った。吐き捨てるように。

・「僕はてっきり、人間の里で育てられた二人が、繭期を迎えて人間の世界では暮らせなくなって、それで血盟議会の紹介でクランに送られてきたのかと思っていたよ」と言うファルス。

・「そうじゃない。私たちは、任務で、来たんだ」「クランのみんなをだましているんだ」「私たちは、薄汚いドブネズミのようなもの」

・「そうなんだ」「でも、僕はいいや。僕は君が、繭期で頭が変になって、そんなことを言ってると思うことにするよ」「僕の中では君は、ただの繭期の女の子さ。人間の里で育った少し変わり者のね」

・リホは、ファルスが優しすぎるので、どうにかなってしまいそうな心を奮い立たせて「明日早いから、もう寝るね」と言って立ち上がった。何かが足元に落ちた。

・「リリーこれ、落と、」ファルスがそれを拾い上げて、箱に書かれた文字を見た。ファルスは固まってしまった。顔が真っ赤になっていくのがわかる。

・リホはそれをひったくると「これはチェリーが勝手に押し付けた」「最高に空気の読めない奴」「わたしたちが何のために人間の里に行こうとしているのか理解していない!」と早口でまくしたてた。

・部屋の隅で小さくなっているリホ。薪をくべながら「いい加減コッチに来いよ風邪ひくぞ!」と怒っているファルス。リホは「風邪で死ぬヴァンプなんて間抜けでいいかもしれない!」と作り笑いしながら陽気な口調で答える。

・恥ずかしくて死にそうだ。チェリーの奴、一生恨む。そう思っているリホ。

・「僕がここにいると火のそばに寄れないって言うなら僕がそっちに行くよ」「来なくていいよ!」「君がこっちに来たらいいでしょ」「来なくていいから!」「リリー」「リリーじゃないよ!私は、リh」

・「この森にいる間は、リリーとして生きるって、約束したよね」「あれは、そうだけど」「君はリリー、君の親友はマリーゴールド」「私は、ヴァンプでも人間でもないんだ!」

・「リリーなんて、ファルスに優しく呼ばれる資格もない」「私は、幸せなんかにはなれない子なんだ!」

・ファルスは大きめの毛布をリホにかけると「別にそれでいいよ」と言った。「僕はそれでいいよ」と。

・火が燃えている。リホはファルスから目を背けたまま。その隣に腰かけているファルス。

・「あのさ」「指一本でも触れたら殺す!」「いや、そういうこと言われても」「私は、幸せになんかならない!」「だからそれは、わかったから」「わかってないよ!」

・「あの、相互イニシアチブってわかる?」「。。。習った」「ヴァンプは噛むことで相手のイニシアチブを掌握できるけど、その相手に噛ませれば、おあいこだよね」「ヒエラルキーの平衡化でしょ。それくらい知ってる。習ったから、クランで」「僕ら信頼関係っていうかさ」「(無言)」「ヴァンプの男女の。その」「(無言)」「その。なんだ、あれ」

・「私を噛んだら殺す」「どうしてそうなるのさ」「噛むつもりでしょ」「そんなこと言ってないじゃん」「牙一本でも立てたら殺す!」「なんでいつもそう物騒なの」

・「もういい、寝よう」「。。。。。。。。。。。。。」「寝るから」「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」「悪かったよ」「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」「君は真剣に友達のことを思っているのに」「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」「あのさ、あの」「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」

・「(ちくしょう。綺麗だ)」「(綺麗だ)」

・ファルスはリホを見た。リホは相変わらずこちらを見ようとしない。そのきれいな横顔。透き通るような白い首筋。震えている。握りしめた拳が小さく震えている。そこでようやくファルスは、リホはそっぽを向いているのではなく、自分に向けて首筋を向けているのだということに気がついた。もう、小一時間も。

・気づいた瞬間、ファルスも黙ってしまった。さらに小一時間。ファルスは、こんな時なんて言ったらいいのか、なにも浮かばない自分に絶望していた。

・気が付くと、リホは眠っている。静かな寝息。ファルスは、そんなリホの寝顔を見て深い溜息をついた。毛布の隙間から自分の体を滑り込ませる。だが、視線を感じる。

・リホの顔を見る。やはり、リホは眠っている。ファルスは、リホの耳元に唇を近づけると「チクっとだけするかも」と言った。

・「バカッ!」小さくつぶやくと、リホはぎゅっと拳を握りしめる。

・ファルスは、リホを噛んだ。リホの首筋から流れる一筋の血。

・明け方。リホとファルスは眠っている。一つの毛布にくるまり。手を握り合って。二人の首筋に残るお互いの牙の痕。流れる一筋の、血。若いヴァンパイアたちの夜。

夜。お互いの身の上を語るリホとファルス。仮の劇伴としては「諦観のクラウス」か。「デリコの兄弟」でもいいと思う。